「反響が来なくなったんじゃなくて、来ても意味がなくなったんです」
木村誠さん(仮名)がそう言ったのは、2024年の春だった。埼玉県で不動産仲介会社を経営して12年。地元に根を張り、SUUMO・HOME'Sへの掲載を続けてきた。月に25〜30件の反響があった時期もあった。しかし今は、同じ金額を払って同じ件数が来ても、成約につながらない。
「質が変わった」と木村さんは言う。「以前は1件の反響が来たら、丁寧に対応すれば5件に2件は成約した。今は10件来ても1件つながるかどうか。残り9件は、複数社に一括で問い合わせしていて、どこかで決まってしまう。あるいは最初から来る気がない」。
木村さんの会社は4名体制だった。木村さん自身と、専任スタッフが3名。ポータルから来た反響を追客する作業が、4名の業務時間の大半を占めていた。
反響が来たら即電話。繋がらなければ2時間後にまた電話。それでも繋がらなければLINEで連絡。週に1回リマインド——このサイクルを月30件分繰り返す。繋がる率は低く、繋がっても「もう他社で決めました」という返答が多い。
「うちは一括査定サイトにも登録していた。来るんですよ、反響は。でもそれはうちだけじゃなくて、同じタイミングで5社6社に一括で問い合わせが行っている。早い者勝ちになる。朝一で電話しても『もう決めました』と言われる。速さで勝てなければ意味がない競争に参加していた」
— 木村誠さん(仮名)、埼玉県内 不動産仲介会社 代表月のポータル掲載費は合計28万円だった。一括査定サービスの登録費も含めると35万円前後になる。年間で420万円。この金額に見合う成約が取れているかという問いに、木村さんは「正直わからない」と答えた。計算したことがなかった。
弊社に問い合わせてきた前の週、木村さんは初めてコスト計算をしたという。過去1年分の契約データとポータル費用を並べて、チラシの裏に書き出した。
📊 木村さんが計算した「ポータルの実態」(過去12ヶ月)
成約1件あたり19万円。木村さんの会社の1件あたり仲介手数料は平均38万円。ポータルコストだけで利益の半分が消えていく計算だった。さらに追客に費やしていた月100時間以上のスタッフ時間を人件費換算すると、実態はさらに悪化する。
「この計算をしたとき、正直ぞっとした。12年間ポータルに依存してきたけど、1回も収支を計算したことがなかった。なんとなく来るから、なんとなく払い続けてきた。それが実態だった」
— 木村さん* * *
弊社との最初の商談で、木村さんが最も強く言ったのは「ポータルは怖くてやめられない」という言葉だった。
12年間、ポータルが集客の柱だった。それを削減するということは、反響がゼロになるリスクを取るということだ。従業員が4名いる。彼らの給与は毎月発生する。反響がゼロになってしまえば、会社が止まる。
担当者はこう提案した。「ポータルをやめる必要はありません。まず成果報酬型を1チャネル追加して、2つを並走させてください。ポータル経由のリードと、資料請求経由のリードを3ヶ月比較してみましょう」。
木村さんは「それならリスクがない」と感じた。最悪ゼロ円で終わる選択肢だから、試すことへの躊躇がなくなった。
掲載内容は「埼玉県南部エリアの中古マンション・一戸建て仲介」に絞った。掲載開始から11日後、最初の資料請求が届いた。
川口市在住の40代夫婦からだった。「家族が増えたので3LDKに引っ越したい。今の家を売って住み替えたい」という状況が、資料請求時のメッセージに書かれていた。
木村さんがすぐに電話した。1回で繋がった。
「ポータルの反響と全然違った。まず1回で繋がる。そして話を聞くと、ちゃんと検討している。『今すぐじゃないけど来年春には動きたい』というタイムラインもあった。ポータルから来る人は、比較のためだけに来ているケースが多くて、温度が読めない。この人は最初から温かかった」
— 木村さん、掲載開始から2週間後その夫婦は、2ヶ月後に成約した。売却と購入の両方を木村さんの会社に依頼し、合計の仲介手数料は76万円になった。この1件だけで、成果報酬型に支払ったコストの数ヶ月分が回収できた計算だった。
並走から3ヶ月後、木村さんは比較データをまとめた。
📊 3ヶ月間の比較:ポータル vs 成果報酬型
月の商談化件数はどちらも2〜3件で同水準だった。しかしコストは35万円 vs 2.4万円という差になった。CPAは19万円 vs 8,000円——約24倍の差だ。
さらに見えてきた違いがあった。追客にかかる時間だ。ポータルの26件は、そのほとんどに電話・LINE・リマインドが必要だった。成果報酬型の8件は、資料請求時にメッセージが届いているため、最初の連絡が取りやすく、無駄な追客がほとんどなかった。
「ポータルは反響は多いが追客に時間がかかる。成果報酬型は件数は少ないが、来た人の対応に集中できる。うちみたいに小さい会社は、100件に電話するより、10件をちゃんと対応する方が絶対に向いている」
— 木村さん、3ヶ月後のフォローアップにて木村さんが出した結論は、「ポータルを捨てる」ことではなかった。ポータルの掲載費を35万円から15万円に削減し、主力媒体を1本に絞った上で、成果報酬型を恒久的な補完チャネルとして残すという判断だった。
📝 取材後記
このインタビューから半年後に連絡をとると、木村さんは「ポータル費用を年間200万円削減できた。その分をスタッフの給与改善に充てた」と話してくれた。反響の件数は減ったが、成約件数はむしろ増えた。「追客に追われなくなったことで、来た人をちゃんと案内できるようになった」という言葉が印象的だった。不動産営業は「数」ではなく「質」の勝負だということを、コスト計算が証明した話だった。
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